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【躁うつ病とは】双極性障害の症状・原因・治療法を専門医が解説

[2025.11.10]

「躁うつ病」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。かつてそう呼ばれていたこの病気は、現在では「双極性障害」という正式名称で知られています。

気分の浮き沈みが非常に激しく、高揚感に満ちた「躁状態」と、深く落ち込む「うつ状態」を繰り返すのが特徴です。この気分の波は本人の意思ではコントロールできず、日常生活や仕事、人間関係に深刻な支障をきたすことも少なくありません。

本記事では、この「躁うつ(双極性障害)」について、その症状や原因、うつ病との違い、そして適切な治療法や日常生活での工夫を、専門的な知見に基づき、できるだけわかりやすく解説していきます。ご自身や身近な方のことでお悩みの場合、正しい理解への第一歩としてお役立てください。

「躁うつ病」とは?双極性障害の基本を理解する

まず、躁うつ(双極性障害)とはどのような病気なのか、基本的な知識から押さえていきましょう。

躁うつ病(双極性障害)の定義と特徴

躁うつ病、すなわち「双極性障害」は、気分(感情)の調整機能がうまく働かなくなる脳の病気の一つとされています。

主な特徴は、気分が異常に高揚し、活動的になる「躁状態」と、気分がひどく落ち込み、エネルギーが枯渇する「うつ状態」という、両極端な状態を周期的に繰り返すことです。

かつては「躁うつ病」と呼ばれていましたが、この呼称が与える誤解やスティグマ(偏見)への配慮、また病気の実態(躁とうつの二つの極がある)をより正確に表すため、現在では世界的に「双極性障害(Bipolar Disorder)」という診断名が用いられています。

けっして「性格の問題」や「気分のムラ」といった単純なものではなく、脳の機能的な不調が背景にある、治療が必要な精神疾患です。

I型とII型の違い

双極性障害は、その症状の現れ方によって、大きく「I型」と「II型」の2つのタイプに分類されます。この違いを理解することは、適切な対応を知る上で非常に重要です。

  • 双極I型障害
    • 特徴:激しい「躁状態」と「うつ状態」を繰り返します。
    • 躁状態の程度:非常に激しく、周囲が明らかに「おかしい」と気づくレベルです。本人の社会的信用や人間関係、財産に深刻なダメージを与えるような行動(例:多額の借金、突拍子もない事業計画、攻撃的な言動)を引き起こしやすく、場合によっては警察沙汰や医療保護入院が必要となるケースもあります。
    • うつ状態:深い抑うつ状態を経験します。
  • 双極II型障害
    • 特徴:「軽躁状態」と「うつ状態」を繰り返します。
    • 軽躁状態の程度:I型の躁状態ほど激しくはありませんが、普段よりも活動的で、気分が高揚し、睡眠時間が短くても平気といった状態が続きます。本人は「調子が良い」「元気な時期」とポジティブに捉えていることが多く、病気であるという認識(病識)を持ちにくいのが特徴です。
    • 問題点:軽躁状態の時には問題行動(浪費、衝動的な判断、多弁など)が見られることもありますが、I型ほど破局的ではないため、本人も周囲も「少しハイなだけ」と見過ごしがちです。しかし、その後に必ずうつ状態が訪れるため、その落差に本人が苦しむことになります。うつ状態の時期にのみ受診し、「うつ病」と誤診されやすいのもこのII型です。

発症時期と有病率

双極性障害は、いつ、誰が発症してもおかしくない病気です。

  • 発症時期
    • 一般的に、20代から30代といった比較的若い世代での発症が多いとされています。思春期や児童期に発症するケースも報告されています。
    • 若年層での発症は、その後の人生設計(学業、就職、結婚など)に大きな影響を与える可能性があり、早期発見・早期治療の重要性が指摘されています。
  • 有病率
    • 日本国内における双極性障害(I型・II型合計)の生涯有病率は、研究によって幅がありますが、およそ0.4%〜1.7%程度と推定されています。
    • 単純計算すると、約100人に1〜2人は生涯のうちに一度は双極性障害を発症する可能性があるということになり、決して稀な病気ではありません。
    • 性別による発症率の差はほとんどないとされています。

躁状態・うつ状態・軽躁状態の特徴とサイン

双極性障害を理解する上で鍵となるのが、「躁状態」「軽躁状態」「うつ状態」それぞれの特徴を知ることです。また、これらが混在する「混合状態」にも注意が必要です。

躁状態(過度の高揚)の症状

双極I型で見られる激しい躁状態は、本人の生活を根底から揺るがす危険性をはらんでいます。

  • 気分の異常な高揚:根拠のない自信に満ち溢れ、気分が異常に高ぶります。「自分は偉大な存在だ」「何でもできる」といった万能感を抱きます。
  • 活動性の亢進と多弁:じっとしていられず、常に動き回ったり、休むことなく喋り続けたりします。話の内容も次々と飛び、まとまりがなくなります。
  • 睡眠欲求の減少:数時間しか寝なくても平気になったり、全く眠らなくても元気に活動できたりします(本人は不眠の自覚がないことが多い)。
  • 衝動性・易怒性:物事の判断が衝動的になり、後先考えずに行動します。些細なことで激しく怒り、攻撃的・暴力的な言動に出ることもあります。
  • 社会的トラブル
    • 浪費:クレジットカードの限度額まで買い物をする、高額な商品を次々と契約する、ギャンブルにのめり込む、見ず知らずの人にお金を配るなど。
    • 対人トラブル:尊大な態度で周囲を見下したり、攻撃的な暴言を吐いたりして、人間関係を破壊してしまいます。
    • 危険な行動:無謀な運転、性的な逸脱行動、非現実的な事業計画の推進など。

この状態では、本人は「絶好調」だと感じており、病気であるとは認めない(病識がない)ことがほとんどです。

軽躁状態(本人が気づきにくい段階)

双極II型で見られる軽躁状態は、躁状態ほど激しくなく、一見すると「調子が良い」だけのように見えるため、見過ごされがちです。

  • 普段以上の活動性:いつもよりエネルギッシュで、仕事や勉強がはかどるように感じます。多くの予定を詰め込み、積極的に行動します。
  • 気分の高揚:陽気で、社交的になり、いつもよりおしゃべりになります。アイデアが次々と浮かぶと感じることもあります。
  • 睡眠時間の減少:躁状態と同様、睡眠時間が短くても(例:3〜4時間)日中元気に活動できます。
  • 集中力の散漫:活動的ではあるものの、注意が散漫になりやすく、一つのことをじっくりとやり遂げるのが難しくなることもあります。
  • 衝動的な行動:普段ならしないような浪費(洋服の買いすぎなど)や、口約束をしてしまうことがあります。

軽躁状態は、本人が「充実している」と感じているため、問題視されません。しかし、周囲の人が「最近、あの人ちょっとハイすぎるな」「言うことがコロコロ変わる」「少しイライラしやすい」といった違和感を覚えることがあります。この「周囲が気づく異変」が、軽躁状態を発見する重要な手がかりとなります。

うつ状態(エネルギーの枯渇)

躁状態や軽躁状態の時期が過ぎると、その反動のように「うつ状態」が訪れます。双極性障害の患者さんは、躁(軽躁)状態の期間よりも、うつ状態の期間の方が長い傾向にあると言われています。

  • 抑うつ気分:何をしても気分が晴れず、憂鬱で、悲しい気持ちが続きます。
  • 興味・関心の喪失:以前は楽しめていた趣味や活動に対して、全く興味が持てなくなります。
  • 思考力・集中力の低下:頭が働かず、簡単な決断もできなくなります。
  • エネルギーの枯渇:体が鉛のように重く、朝起き上がれないなど、極端に疲れやすくなります。
  • 希死念慮:生きているのが辛い、消えてしまいたいといった考え(希死念慮)が浮かぶこともあります。

【うつ病との違いが出やすい点】

一般的なうつ病(単極性うつ病)と比べて、双極性障害のうつ状態では、以下のような非定型的な特徴が見られることがあります。

  • 過眠:不眠ではなく、寝ても寝ても眠い、一日中寝てしまう。
  • 過食:食欲不振ではなく、特定の食べ物(特に甘いものや炭水化物)を無性に食べ過ぎてしまい、体重が増加する。
  • 身体的な重さ:手足が鉛のように重く感じる(鉛様麻痺)。
  • 気分の変動:一日の中でも気分の波が大きい、あるいは良い出来事があると一時的に気分が明るくなる(気分の反応性)。
  • イライラ感:落ち込むだけでなく、焦燥感やイライラが強く出ることがあります。

躁とうつが混ざる「混合状態」

最も注意が必要な状態の一つが「混合状態」です。これは、躁状態とうつ状態の症状が同時に、あるいは非常に短期間(数時間〜数日)のうちに入れ替わり現れる状態を指します。

  • 症状の例
    • 気分はひどく落ち込んでいる(うつ)のに、イライラしてじっとしていられない(躁)。
    • 頭の中では次々とアイデアが浮かぶ(躁)が、行動に移すエネルギーがない(うつ)。
    • 焦燥感(躁)と希死念慮(うつ)が同時に存在する。

この混合状態は、本人の苦痛が非常に大きく、衝動的な行動(特に自殺)のリスクが極めて高い危険な状態です。少しでも「いつもと違う」「様子が激しくおかしい」と感じたら、ためらわずに医療機関に相談し、早期の介入を受ける必要があります。

躁うつ(双極性障害)の原因と発症メカニズム

なぜ躁うつ(双極性障害)になってしまうのでしょうか。現在の研究では、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

脳の神経伝達異常が主な原因

双極性障害は、「心の弱さ」や「性格の問題」ではなく、脳の機能的な異常が関係している「脳の生物学的な病気」であると考えられています。

  • 神経伝達物質のバランス異常
    • 私たちの気分や感情、思考、意欲などは、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)の複雑なバランスによって調整されています。
    • 双極性障害では、これらの神経伝達物質の放出量や感受性、情報伝達のシステムに何らかの不調が生じ、気分の調整がうまくいかなくなると推測されています。
    • 例えば、躁状態では神経活動が過剰になり、うつ状態では低下するなど、脳内の情報処理に異常が起きていると考えられています。
    • 治療薬(気分安定薬など)がこれらの神経伝達システムに作用することからも、生物学的な基盤があることが裏付けられています。

「自分が弱いからだ」と責める必要は全くありません。適切な治療によって、脳の機能的なバランスを整えていくことが可能な病気です。

遺伝的要因の影響

双極性障害の発症には、遺伝的な要因も一定程度関与していることが知られています。

  • 家族内発症:血縁者(特に親や兄弟など第一度近親者)に双極性障害の患者さんがいる場合、いない場合と比較して発症リスクが数倍高まることが報告されています。
  • 遺伝子の影響:複数の遺伝子が複雑に関与し、「発症しやすさ(脆弱性)」に影響を与えていると考えられています。

【重要な注意点】

ただし、これは「遺伝する病気」という意味ではありません。

  • 必ず発症するわけではない:血縁者に患者さんがいても、必ずしも発症するわけではありません。発症しない人の方が圧倒的に多いです。
  • 環境要因との相互作用:遺伝的な素因を持っていたとしても、それが発症するかどうかには、後述する環境要因(ストレスなど)が大きく影響します。遺伝的素因と環境要因が組み合わさって、初めて発症に至ると考えられています。

環境・生活要因

遺伝的な素因があったとしても、発症や再発の「引き金(トリガー)」となるのは、多くの場合、環境的な要因や生活習慣です。

  • 強いストレス
    • 人生における大きな出来事(例:近親者の死、失恋、転職、昇進、対人関係のトラブル、経済的な問題)が、最初のエピソード(躁またはうつ)のきっかけとなることがあります。
  • 生活リズムの乱れ(特に睡眠)
    • 双極性障害の再発において、睡眠リズムの乱れは非常に重要なリスク因子です。
    • 徹夜、夜勤、不規則なシフト勤務、時差ボケなどによる「昼夜逆転」や「極端な睡眠不足」は、脳の体内時計を狂わせ、躁状態を誘発する強力な引き金となります。
    • 逆に、躁状態の初期サインとして「睡眠時間が短くなる」という現象も見られます。
  • その他の要因
    • 過労や慢性的な疲労
    • アルコールの多飲
    • 薬物の使用
    • (女性の場合)出産後(産後うつと誤診されやすい躁エピソード)

一度発症すると、脳が気分の波を記憶しやすくなる(キンドリング現象とも呼ばれます)ため、再発を繰り返すごとに、ストレスなどの明確な引き金がなくても再発しやすくなるとも言われています。

うつ病との違いと見分け方

双極性障害、特にII型は「うつ病」と非常に間違われやすい病気です。適切な治療を受けるためには、両者の違いを理解することが不可欠です。

なぜ躁うつは誤診されやすいのか

双極性障害の患者さんが「うつ病」と診断されてしまうケースは非常に多く、診断が確定するまでに平均で数年かかったという報告もあります。

  • うつ状態で受診するため
    • 多くの患者さんは、躁状態(特に軽躁状態)の時は「調子が良い」と感じているため、医療機関を受診しません。
    • 受診のきっかけは、生活に支障をきたす「うつ状態」の時がほとんどです。
    • 医師は患者さんの「うつ状態」しか見ていないため、当然「うつ病」と診断しやすくなります。
  • 過去の躁(軽躁)状態を忘れている・自覚していない
    • 患者さん自身が、過去の「元気すぎた時期」を「調子が良かっただけ」と思い、医師に伝えない(あるいは忘れている)ことも原因です。
  • 誤診のリスク
    • 「うつ病」と診断され、抗うつ薬だけを処方されると、双極性障害の患者さんの場合、症状が改善しないばかりか、逆に躁状態(軽躁状態)を引き起こしたり(躁転)、気分の波が激しくなったり(ラピッドサイクラー化)、混合状態を誘発したりする危険性があります。

双極性障害を疑うサイン

もし「うつ病」と診断されて治療を受けているにもかかわらず、以下のようなサインが見られる場合、主治医に相談し、双極性障害(躁うつ)の可能性がないか再検討してもらう必要があります。

【うつ病治療中のチェックリスト】

  • 抗うつ薬を飲んだら、イライラ感が強まったり、眠れなくなったり、ソワソワして落ち着かなくなったりした(躁転の可能性)。
  • 抗うつ薬が効かない、あるいは一時的に効いてもすぐに効果がなくなる。
  • 治療中に、急に「治った!」と感じるほど元気になった時期がある。
  • 「うつ状態」と言っても、ひどく落ち込む時期と、比較的元気な時期の波が激しい。
  • うつ状態の時に、過食(特に甘いもの)や過眠(寝過ぎ)の傾向が強い。
  • 若い年齢(例:25歳未満)で「うつ病」を発症した。
  • 家族や親戚に、双極性障害(躁うつ病)と診断された人がいる。

医師に伝えるべき情報

双極性障害の正確な診断には、現在のうつ状態だけでなく、過去の躁(軽躁)エピソードの有無が決定的に重要です。

受診の際は、以下の情報をできるだけ具体的に医師に伝えてください。

  • 過去の行動パターン
    • 「今思えば異常だった」と感じる、元気すぎた時期はありませんでしたか?
    • (例)数日徹夜しても平気だった時期
    • (例)普段の自分では考えられないような高額な買い物をした時期
    • (例)自信満々で、周囲とトラブルを起こした時期
    • (例)おしゃべりが止まらず、家族から「うるさい」と言われた時期
  • 家族歴
    • 両親、兄弟、祖父母などに、双極性障害(躁うつ病)と診断された人、あるいはそう疑われるような「気分の波が激しかった人」はいませんか?
  • 睡眠・生活リズムの変化
    • 睡眠時間が極端に短くなったり、逆に長くなったりする時期がないか。
    • うつ状態の時の具体的な症状(過食・過眠の有無など)。
  • 治療歴
    • 過去に抗うつ薬を処方された経験がある場合、その時の反応(効いたか、効かなかったか、イライラなどが出たか)。

これらの情報は、うつ病と双極性障害を鑑別するための非常に重要な手がかりとなります。

ココロセラピークリニックでは、これまでの生活歴・家族歴・お薬の反応などを丁寧に伺い、うつ病と躁うつ(双極性障害)の違いを踏まえて診療を行います。まずは症状やご不安を言葉にするところから一緒に始めましょう。

診断と治療法

双極性障害(躁うつ)が疑われる場合、専門の医療機関(精神科・心療内科)では、どのような診断と治療が行われるのでしょうか。

診断の流れ

双極性障害の診断は、血液検査や画像検査で確定できるものではなく、主に詳細な問診によって行われます。

  • 問診
    • 医師が患者さんご本人と面談し、現在の症状だけでなく、過去から現在に至るまでの気分の変動の経過を詳細に聞き取ります。
    • 特に、過去に「躁状態」または「軽躁状態」があったかどうかを慎重に確認します。
    • うつ病や他の精神疾患(統合失調症、パーソナリティ障害など)との鑑別も行われます。
  • 家族からの情報聴取
    • 躁状態や軽躁状態は、本人が自覚していない(病識がない)ことが多いため、客観的な情報を得るために、ご家族や身近な人からお話を伺うことが非常に重要です。
    • 「いつもと違ってハイだった時期」の具体的なエピソード(浪費、言動など)は、診断の有力な根拠となります。
  • 国際的な診断基準
    • 医師は、DSM-5(アメリカ精神医学会)やICD-11(世界保健機関)といった国際的な診断基準に基づき、躁エピソード、軽躁エピソード、抑うつエピソードの基準を満たしているかを評価し、総合的に診断します。
  • 心理検査
    • 必要に応じて、心理検査(質問紙法、投影法など)を行い、患者さんの特性や状態を多角的に評価することもあります。

薬物療法(治療の中心)

双極性障害の治療の根幹は、薬物療法です。気分の波をコントロールし、躁状態・うつ状態を予防・治療することを目的とします。

  • 気分安定薬
    • 治療の土台となる最も重要な薬剤です。気分の波を「安定」させ、躁状態とうつ状態の両方を予防・治療する効果があります。
    • (例)リチウム(リーマス)、バルプロ酸(デパケン、セレニカ)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)など。
    • ラモトリギンは特にうつ状態の再発予防に、リチウムは躁・うつの両方や自殺予防に効果が示されています。
  • 非定型抗精神病薬
    • 気分の高ぶりやイライラを鎮める作用があり、特に躁状態の治療に有効です。また、うつ状態の改善や再発予防にも効果が認められている薬剤もあります。
    • (例)オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、アリピプラゾール(エビリファイ)、ルラシドン(ラツーダ)など。
  • 抗うつ薬の使用に関する注意
    • 双極性障害のうつ状態に対して、抗うつ薬を単独で使用することは原則として推奨されません
    • 前述の通り、抗うつ薬は躁転(躁状態を引き起こす)や気分の波を不安定にするリスクがあるためです。
    • うつ状態が重い場合でも、気分安定薬や一部の抗精神病薬をベースに、ごく短期間、慎重に併用が検討されるにとどまります。

薬物療法は、脳の機能的なバランスを整えるために必要不可欠です。医師の指示通りに服薬を続けることが、安定した生活への第一歩となります。

心理社会的治療

薬物療法と並行して、心理社会的治療(精神療法)を行うことは、再発防止や社会生活の質の向上に非常に有効です。薬物療法が「脳」に働きかける治療なら、こちらは「生活」や「考え方」に働きかける治療と言えます。

  • 心理教育
    • 患者さんご本人とご家族が、双極性障害という病気について正しい知識(症状、原因、薬の役割、再発のサインなど)を学ぶことです。
    • 病気を正しく理解することで、治療への主体的な取り組み(アドヒアランスの向上)や、再発の兆候への早期対処が可能になります。
  • 認知行動療法(CBT)
    • 自分の気分の波のパターンを記録し、どのような時に再発しやすいか(ストレス要因や生活リズムの乱れ)を把握します。
    • 再発の初期サイン(例:「睡眠時間が減ってきた」「イライラしやすくなった」)を早期に察知し、悪化する前に対処する(受診する、休息をとる)方法を学びます。
    • ストレスへの対処法(コーピングスキル)を身につけます。
  • 家族療法
    • 双極性障害は、ご家族の関わり方が本人の状態に大きく影響します。
    • 家族が病気を理解し、本人への適切な接し方(過度な干渉や批判を避ける)を学ぶことで、家庭内のストレスを減らし、本人の回復をサポートします。また、家族自身の負担を軽減する目的もあります。
  • 対人関係・社会リズム療法(IPSRT)
    • 対人関係のストレスと、生活リズム(特に睡眠・覚醒リズム)の乱れが再発の引き金になることに着目した治療法です。
    • 規則正しい生活リズム(起床、食事、活動、就寝)を確立・維持することを目指します。

再発を防ぐための生活習慣と心構え

双極性障害は、残念ながら再発しやすい病気です。症状が落ち着いている「寛解期」をいかに長く維持するかが、治療の大きな目標となります。

薬の継続と通院の重要性

再発を防ぐために、最も重要で、かつ最も難しいのが「薬を飲み続けること」です。

  • 自己判断での中断は最大の再発リスク
    • 症状が良くなると、「もう治った」「薬は必要ない」と感じ、自己判断で薬をやめてしまう方が少なくありません。
    • しかし、症状が落ち着いているのは、薬が気分の波をコントロールしてくれているからです。
    • 服薬を中断すると、非常に高い確率で再発します。再発を繰り返すほど、病状は複雑化し、治療が難しくなる傾向があります。
  • 長期的な服薬の必要性
    • 双極性障害は、高血圧や糖尿病などの慢性疾患と同様に、長期的なコントロールが必要な病気です。
    • 副作用が辛い場合や、減薬を希望する場合は、決して自己判断せず、必ず主治医に相談してください。医師と相談しながら、最適な処方を見つけていくことが大切です。
    • 定期的な通院は、薬の調整だけでなく、再発の兆候がないかを医師とチェックする上でも不可欠です。

睡眠と生活リズムの安定

薬物療法と並んで、再発防止の柱となるのが「生活リズムの安定」です。特に睡眠は、双極性障害のコントロールにおいて極めて重要です。

  • 睡眠リズムの死守
    • 「決まった時間に起き、決まった時間に寝る」ことを徹底することが、再発防止の基本です。
    • 特に「起床時間を一定にする」ことが、体内時計を整える上で効果的です。
    • 躁状態の引き金となりやすい「徹夜」「夜更かし」「昼夜逆転」は絶対に避けましょう。
    • 残業が多い、夜勤があるなど、現在の生活が睡眠リズムを乱す要因になっている場合は、主治医と相談の上、職場環境の調整(配置転換、時短勤務など)も検討する必要があります。
  • 日中の活動
    • 日中は適度に太陽の光を浴び、活動的に過ごすことで、夜の自然な眠りにつながります。
    • ただし、躁状態を誘発しないよう、過度な活動やストレスは避ける必要があります。

再発のサインを早期に察知する

再発は、重症化する前、つまり「初期サイン」の段階で気づき、対処することが非常に重要です。

  • 自分なりのサインを知る
    • 躁(軽躁)状態のサイン、うつ状態のサインは、人によって出やすいパターンがあります。
    • (例)躁のサイン:睡眠時間が短くなる、おしゃべりになる、浪費が始まる、イライラしやすくなる
    • (例)うつのサイン:朝起きられない、趣味が楽しめない、疲れやすい
    • 気分や睡眠、活動量を記録する(気分グラフをつける)ことで、自分のパターンが見えやすくなります。
  • 家族や周囲とサインを共有する
    • 特に躁(軽躁)状態の初期サインは、本人が気づきにくいものです。
    • 信頼できる家族やパートナーと、「もし私がこうなったら(例:睡眠時間が3日連続で5時間を切ったら)、早めに教えてほしい」と、再発のサインを共有しておくことが有効です。
  • 早期に相談する
    • 「いつもと違う」「少しハイになってきたかも」「落ち込みそうだ」というサインを感じたら、悪化する前に主治医に連絡し、受診を早める、薬の調整を相談するなどの対応をとりましょう。早期の介入は、重症化を防ぎ、回復までの時間を短縮します。

家族・周囲の人ができるサポート

双極性障害(躁うつ)は、ご本人だけでなく、ご家族や身近な方々にも大きな影響を与えます。適切なサポートは、ご本人の回復に不可欠です。

病識がない時期の対応

特に躁状態の時、ご本人は「自分は絶好調だ」と思っており、病気であるという認識(病識)がありません。この時期の対応は非常に困難を極めます。

  • 異変の察知と受診の促し
    • 「普段と違う」行動(浪費、攻撃的な言動、過度な活動)に気づいたら、それは病気の症状である可能性が高いです。
    • ご本人が受診を拒否する場合、まずはご家族だけでも医療機関に相談し、対応をアドバイスしてもらうことが重要です。
  • 危険な行動への対応
    • 多額の借金や契約、危険な運転など、ご本人や周囲に重大な不利益や危険が及ぶ場合は、冷静に対応する必要があります。
    • (例)クレジットカードや現金を一時的に預かる(ただし、これがトラブルの原因になることもあります)
    • (例)車の鍵を隠す
    • ご本人や他者に危害を加える恐れが差し迫っている場合(混合状態での自殺企図、激しい暴力など)は、ためらわずに警察や救急(119番)、あるいは精神科救急窓口に連絡してください。場合によっては、本人の意思によらない医療保護入院が必要となることもあります。

家族が支援する際のポイント

ご家族が良かれと思ってとる行動が、かえってご本人を刺激してしまうこともあります。

  • 冷静かつ客観的なコミュニケーション
    • 躁状態のご本人に対して、感情的に「やめなさい!」「おかしいよ!」と叱責したり、正面から論破しようとしたりするのは逆効果です。本人はさらに興奮し、対立が深まるだけです。
    • できるだけ冷静に、感情的にならず、「〇〇という行動は、あなたにとって良くない結果になると思う」「〇〇(浪費など)は、家族として困っている」など、客観的な事実や、「私(家族)」を主語にしたアイ(I)メッセージで伝えることを心がけましょう。
  • うつ状態の時の対応
    • 「頑張れ」といった安易な励ましは禁物です。ご本人はすでに頑張りたくても頑張れない状態にあります。
    • 「ゆっくり休んでいいんだよ」というメッセージを伝え、安心して休める環境を整えることが大切です。
  • 家族も病気を理解する(心理教育)
    • 家族も一緒に心理教育を受け、双極性障害が「脳の病気」であり、症状(浪費や暴言など)は「本人のせい」ではなく「病気のせい」であることを理解することが、冷静な対応の第一歩となります。
  • 家族自身のケア(レスパイト)
    • ご本人をサポートするご家族は、非常に大きなストレスを抱えます。「巻き込まれすぎず」、適度な距離感を保ち、ご家族自身が休息をとること(レスパイト)も非常に重要です。

相談窓口と支援団体

ご本人やご家族だけで問題を抱え込まないでください。利用できる社会資源やサポートを活用することが重要です。

  • 公的な相談窓口
    • 地域の保健所、保健センター:精神保健福祉士や保健師が、受診や利用できるサービスについての相談に応じてくれます。
    • 精神保健福祉センター:各都道府県・政令指定都市に設置されており、専門的な相談が可能です。
    • (緊急時)精神科救急情報窓口:夜間や休日に緊急の受診が必要な場合に、対応可能な病院を案内してくれます。
  • 支援団体・家族会
    • 双極性障害の患者さんやそのご家族が集まる「家族会」や「当事者会(ピアサポート)」が各地にあります。
    • 同じ悩みや経験を持つ人々と情報を交換したり、気持ちを分かち合ったりすることは、ご本人やご家族にとって大きな支えとなります。

まとめ:早期発見と継続治療が安定への第一歩

「躁うつ病(双極性障害)」は、気分の波に激しく振り回され、ご本人も周囲も苦しむことが多い病気ですが、決して「性格の問題」や「心の弱さ」ではありません。脳の機能的な不調によって起こる「治療可能な脳の病気」です。

放置すれば再発を繰り返し、社会生活に大きな支障をきたすリスクがありますが、専門医のもとで正しい診断を受け、薬物療法や心理社会的治療を継続し、生活リズムを整えることで、気分の波をコントロールし、安定した日常生活を取り戻すことは十分に可能です。

「自分はただのうつ病だと思っていたが、もしかしたら…」

「家族の気分の波が激しすぎて困っている」

気分の波や治療への不安は、早めの相談で軽くできます。ココロセラピークリニックは、はじめての方にもわかりやすい説明を大切にしています。小さな違和感でも遠慮なくお話しください。

 

 

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